レクサスLS開発物語 賢いクルマ、賢いやり方(後編)

(前回からの続き)

面白い、やったらいいじゃないか

 ブランド価値の向上と収益の確保。この二つの難題をどう両立させるか、吉田は悩みに悩み抜いた末に、ある秘策を思い付いた。だが、それが実現可能かどうか、自分では見当が付かない。そこで吉田は、初代LSのCEだった鈴木一郎を訪ねた。

「鈴木さん、お久しぶりです」

「吉田君、4代目のCEになったんだって。開発の方はうまく進んでいるかい」

「いやー、まだまだこれからです。実は、今日は、鈴木さんにちょっとお聞きしたいことがありまして」

「改まって何だね」

「LSがワンボディになったのって、何か理由があるんですか」

「いや、別に理由はないなぁ。そんなこと、考えすらしなかったよ。しかしどうしてまた、そんなこと聞くんだい」

「実はですね…」

 吉田は鈴木に、4代目LSに課せられた使命、そしてそれを果たすための秘策を明かした。

「なるほど、考えたな」

「鈴木さん、どうでしょうか」

「面白い、やったらいいじゃないか」

 初代LSのCE、鈴木にお墨付きをもらった、吉田の秘策。それは、バリエーション展開だった。LSといえば、これまでは基本的に1種類の車体と1種類のエンジンを組み合わせただけ。しかし車体やエンジンのバリエーションを増やす、具体的にはより上のクラスのクルマをラインアップに加えれば、ブランドイメージはそれで、収益はこれまでと同じクラスのクルマで確保できると考えたのだ。

 そして、より上のクラスのクルマを実現する手段の一つとして思い浮かんだのが、ロング・ホイール・ベースだった。ドイツメーカーの高級車種では、これを用意しているところが多い。自分では運転せずに、専ら後部座席を使用するオーナーのニーズに応えたものだ。しかし、歴代のLSにはこれがない。その理由を知りたくて、吉田は鈴木を訪ね、お墨付きを得たのだった。

 ロング・ホイール・ベースを追加するために、吉田の根回しが始まった。ところが、社内の抵抗は思ったより強い。役員をはじめ、関係部署に説明に行くも、口々に反対された。

「LSは初代からずっと1本でやってきたんだ。今さらなんでロングなんか追加するんだ」

「LSはロングに比べれば狭いけど、他社のショートよりは広い。それで十分じゃないか」

「車体を大きくして室内スペースを広げるなんて、賢いやり方じゃない。特にLSのような賢いクルマには」
 しかし、吉田は食い下がる。

「LSは今、試練を迎えています。これを乗り越えるには、より上のユーザー層を開拓していかなきゃならない。ベース車種をしっかりやって、その上でワンランク上を手掛けるんです。これなくして4代目LSの成功はありません」

 1度でダメなら2度、3度…。吉田は周囲を粘り強く説得し続け、徐々に理解者を増やしていった。やがて、ロング・ホイール・ベースの追加に反対する声は聞こえなくなった。

ここから先は会員(無料・氏名不要)の登録が必要です。