営業現場を仮想体験6:「この製品なら導入したい」と思っていただけましたか?

 この連載ではSEから営業職に転向した人に向けて、SEの強みを生かした「ロジカルセールス」の進め方を筆者の経験とノウハウを基に説明しています。IT企業「ITproシステム開発」の営業担当で、卸売業向け販売管理パッケージの受注を目指しているあなたは、以下のストーリーに沿って展示会来場者への営業を進めています。

1. アポイントメント取得(アポ取り)

2. 訪問

■環境準備
  • 訪問主旨の説明と確認
  • 訪問内容の説明と実施内容の選択
■価値提供とニーズ把握
  • 会社説明
  • 事例紹介(商品説明を含む)
  • デモンストレーション(顧客状況の確認を含む)
■導入合意とスケジュール合意
  • 顧客要望と自社商品の適合度、導入意思、および課題の確認
  • 次のアクションの確認
3. クロージング

 ケーススタディ編の第2回(展示会来場者からアボを取るテクニック)で「1. アポイントメント取得(アポ取り)」を、第3回(いざ顧客訪問、会社説明は価値提供のチャンス)で「2. 訪問」の「訪問主旨の説明と確認」から「会社説明」、第4回(「事例紹介」で顧客の心をがっちりつかむ)で「事例紹介」を、第5回(プレゼンは佳境へ、自然な流れで「相手の予算」を確認)で「デモンストレーション(顧客状況の確認を含む)」を仮想体験しました。

 パッケージのデモが終わりました。いよいよ今回の訪問の締めです。

 この訪問の目的は「導入意思の確認」です。あなたが紹介した商品を相手が導入したいと思っているかどうかを確認していく必要があります。「顧客要望と自社商品の適合度、導入意思、および課題の確認」と「次のアクションの確認」を通じて、その流れを見ていきます。

顧客要望と自社商品の適合度、導入意思、および課題の確認

 デモはいかがだったでしょうか。率直なご感想をお聞かせください。

(相手:使いやすそうな画面ですね)

 ありがとうございます! ここまでいろいろとやり取りさせていただき、デモもご覧いただきました。弊社のパッケージは御社で使えそうですか? 「このパッケージは全然使えない」というのであれば、ちょっとショックですが、遠慮なくおっしゃってください。

(相手:[苦笑いしつつ]いえいえ、そんなことはありませんよ。使いやすそうですし、事例の会社さんと当社は同じような状況ですので、適合しそうな気がしています)

 ありがとうございます。XX様(相手の個人名)としては、「このパッケージなら導入したいな」と思っていただけたでしょうか? 実際に会社として導入する、しないのご判断は、具体的にご検討いただいてからになりますが、現時点のXX様のご意見をお伺いできればと思うのですが…。

(相手:私としては、今まで説明を受けた中で一番使いやすそうなので、導入に向けて検討を進めたいと思っています。ただ、他のパッケージを含めて検討していくつもりです)

 「導入に向けて検討を進めたい」とおっしゃっていただき、ありがとうございます。また、「一番使いやすそう」というお褒めの言葉をいただき、本当にうれしい限りです。開発スタッフが聞いたら喜ぶと思います。

 先ほどお話ししたように、今回の訪問の目的は「導入意思の確認」なので、きっちりと確認する必要があります。しかし、いきなり「導入したいと思いますか?判断してください」などと言っても、相手は警戒して答えてくれません。

 たとえ顧客が導入したいと思っていたとしても、明確に「導入したい」とは言いにくい事情もあります。明確に意思を表明すると、顧客に責任が発生するからです。導入したいと思っている顧客が、「導入したい」と抵抗なく言えるような環境を準備することが大切になります。

 そこで相手に導入意思を確認する前に、ワンクッション置きます。まず「使えそうかどうか」という選択を提示し、「使えそうだ」と選んでいただいたあとに、意思を確認しています。こうすれば、相手は答えやすくなります。

選択と弛緩のテクニックを組み合わる

 パッケージが使えそうかどうかの選択では、選択と弛緩のテクニックを組み合わせて判断を促します。

弊社のパッケージは御社で使えそうですか? 「このパッケージは全然使えない」というのであれば、ちょっとショックですが、遠慮なくおっしゃってください。

 相手に「使えそう」(自社のニーズに適合している)と言ってもらうために、選択のテクニックを変化させて使っています。「選択してほしくない内容を極端な表現で提示する」というものです。ここでは「全然使えない」という表現を使っています。

 こうした極端な表現は、相手に違和感や不信感を与える場合があります。そこで弛緩のテクニックを併用しています。「ちょっとショックですが」と笑いを誘うように表現して、極端な選択を違和感なく提示し、「使えそう」を選択しやすくしています。

 その上で、顧客に導入意思を確認します。

XX様(相手の個人名)としては、「このパッケージなら導入したいな」と思っていただけたでしょうか? 実際に会社として導入する、しないのご判断は、具体的にご検討いただいてからになりますが、現時点のXX様のご意見をお伺いできればと思うのですが…。

 最終的な会社での判断ではないことを明確にして、判断のハードルを下げていますが、導入意思の確認は必須です。

 この例のように相手がその意思を見せたら、「導入の意思がある」ことを明確に復唱して確認しましょう。それにより契約行為は強固になり、今後の営業折衝を進めやすくなります。

プレッシャーを与えずに課題を確認

 XX様がおっしゃるとおり、「一番使いやすい」だけでは弊社のパッケージを選択していただけないと思っています。

 本日、いろいろとやり取りさせていただき、貴社に導入していただくためには三つの条件が必要だと感じました。

  1. 弊社パッケージが使いやすいかどうか
  2. 弊社のパッケージを導入すると、手作業が減るかどうか
  3. 貴社の予算内で納まるかどうか

 この三つの条件がそろえば、貴社に導入していただけるのではないかと考えています。他に必要な条件があれば、遠慮なくおっしゃっていただければと思います。いかがでしょうか?

(相手:そうですね、その3点でよいかと思います)

 ありがとうございます。

 一つ目の使いやすいかどうかについては、先ほどお褒めの言葉を頂きましたが、高く評価していただいたと思っています。

 残りは二つ目と三つ目です。二つ目の手作業が減るかどうかですが、弊社で用意している「業務チェックシート」を利用していただければと考えています。

 このシートには、パッケージの標準機能で対応している業務内容のリストを記載しています。貴社の業務内容がリストにどれだけ含まれているか、含まれていないかを洗い出すことで、作業をどれだけ効率化できるかを判断できます。

 三つ目の予算内に収まるかどうかに関しては、パッケージの費用に加えて、サーバーの費用や、設定、カスタマイズ、導入教育などの費用を含めた概算費用を提示するようにします。それで大体の価格感をご確認いただけると思います。

 以上ですが、「ちょっと違うな?」という点があれば、遠慮なくおっしゃってください。

(相手:いえ、大丈夫です)

 ありがとうございます。

 最後に課題を確認します。ここでは課題を提示し、不足があれば顧客から提示していただくよう促しています。

 ちなみに「これでいいですか?」と明確にイエスかノーかの返事を求めると、顧客はプレッシャーを感じます。1回の訪問で何度もこうしたプレッシャーを受けると、営業担当者に不信感を抱くことにつながります。

 今回の訪問で明確に顧客にイエスという返事を求めているのは、導入意思を確認する1回だけです。これまでのケーススタディ編を再度ご覧ください。ここでは、「他に必要な条件があれば、遠慮なくおっしゃっていただければ」などと不足の確認をすることで、提示内容に最終的な合意を促します。

 今回の例であれば、「他にこれもあります」と提示されるケースはあまりないので、提示した内容で最終的に合意をもらいます。ここで顧客が「これも課題ではないかと思いますが」などと提示してきた場合は、さらに課題が明確になるので両者にとって価値のある確認行為となります。

次のアクションの確認

 ここまでたくさんのお時間を頂いてしまい、申し訳ありません。最後に、今後の進め方を確認させていただければと思います。

 先ほど出た二つの課題、手作業が減るかどうかは業務チェックシートで確認していただく、予算に合っているかどうかは概算費用資料で確認していただく、という形で対応できればと考えていますが、いかがでしょうか。

(相手:そうですね)

 業務チェックシートでの確認はお手間とお時間が掛かるかもしれませんので、概算費用資料での確認を先行して進めていただければと思います。もし貴社の予算と大きなズレがないようであれば、社長様を含めて役員の皆様にデモをご覧いただければと考えていますが、いかがでしょうか?

 現場の方に確認作業をいただき、お手間を掛けていただいた上で、最終的にノーが出ると厳しいと思います。デモはコンパクトにまとめますので、ぜひ調整していただけないでしょうか。

(相手:分かりました。社長と相談してみます)

 ありがとうございます! では社に戻り次第、業務チェックシートと概算費用の資料をお送りします。XX様のほうでは、社長様あるいは役員様も含めたデモの場をセッティングいただけるよう社内調整をお願いできますでしょうか。

(相手:分かりました)

 社長様はスピードを求めておられると思いますので、弊社も素早く対応するよう心がけます。「●●(あなたの名前)さん、対応が遅いよ!」というところがあれば、遠慮なくおっしゃってください。

 できれば来週、遅くとも今月中にはデモをセッティングしていただければ、社長様のスピード感にも対応できるのではと思います。弊社もそのつもりで準備を進めておきます。

 本日の訪問内容は以上となります。最後に何かご不明点やご質問等、ございませんでしょうか?

(相手:大丈夫です)

 本日は長いお時間を頂き、本当にありがとうございました。貴社に喜んでいただけるように精一杯対応させていただきますので、今後ともよろしくお願いいたします。では、失礼いたします。

 (帰り際に思い出したように)あ、そうそう、もう一点だけすみません。社に戻り次第、資料類をメールでお送りしますので、XX様もできれば今日明日には社長様にデモについて相談していただけないでしょうか?

 その際には、「いいパッケージを見つけました!」とお伝えいただければうれしいです。また明日にでもお電話させていただきます。では失礼します。

今後の進め方の案をこちらから提示

 今後の進め方については、こちらから先方に案を提示します。「このあと、どうしましょうか?」と相手に尋ねるではなく、最も早く受注してもらえるストーリーを作り、案として提示することが大切です。

 今回の例では、費用が先方の予算に適合しているのであれば、最終決裁者である社長へのプレゼンを実施し、そこで方向性を定めて業務適合性の判断へと進めています。業務適合性の判断には時間を要する場合が多いため、先に決裁権者の判断を仰ぎ、上から作業の指示を出してもらうのが狙いです。

 短期間での受注を促すにあたり、早いタイミングで決裁権者の判断を仰ぐことは重要です。決裁権者と直接対面して営業折衝ができる機会を設けることができれば、より効果的です。受注までの短期化を促すだけでなく、最終的な導入成果を評価してもらうことで、予算枠や導入時期などに関係なく導入の可否を即断していただく可能性が高まるからです。

 「先に業務適合性を判断したい」と顧客が希望する場合は、こちらを先に実施するストーリーを作ります。その際は、スケジュールを区切って進める工夫が必須です。

 全てのアクションにはスケジュールを設定する必要があります。顧客側のアクションについても同じです。ただ、顧客のアクションにスケジュールを設定するとプレッシャーを与えることになるので、注意が必要です。

 今回の例のように、自社に厳しいスケジュールを設定しつつ顧客のスケジュールを設定する、あるいはスケジュールを設定しなくてはならない理由を明確に提示する、のようにプレッシャーを与えない工夫が大切になります。

吉田 守
ウイングアーク1st 営業本部クラウド事業統括部クラウド営業部西日本グループ グループマネージャ
IT企業に勤めながら、営業および事業企画に困っているIT企業のコンサルティングに取り組む。SEからシステム営業を経てSI事業やパッケージ事業の企画から立ち上げをおこなう。現在はウイングアーク1stでクラウド事業の立ち上げに従事する。