営業現場を仮想体験7:あと一押し! 「値引きしないとダメ」との声にどう対応するか

 IT企業「ITproシステム開発」の営業担当で、卸売業向け販売管理パッケージの受注を目指しているあなたは、以下のストーリーに沿って展示会来場者への営業を進めています。

1. アポイントメント取得(アポ取り)

2. 訪問

■環境準備
  • 訪問主旨の説明と確認
  • 訪問内容の説明と実施内容の選択
■価値提供とニーズ把握
  • 会社説明
  • 事例紹介(商品説明を含む)
  • デモンストレーション(顧客状況の確認を含む)
■導入合意とスケジュール合意
  • 顧客要望と自社商品の適合度、導入意思、および課題の確認
  • 次のアクションの確認
3. クロージング

 前回(「この製品なら導入したい」と思っていただけましたか?)、客先訪問の最大の目的である「導入意思の確認」が終わりました。先方はあなたが紹介した商品を導入したいという意思を持っているようです。

 その場で課題を整理・確認した上で、先方には社長を含めたデモの調整を依頼しました。後日、役員向けデモも完了しました。

 今回はクロージングです。先方を再度訪問し、受注していただくための折衝を進めます。以前の回(「もっと値引きしてよ」、顧客にこう言われたらどうすべき?)で見たように、先方は値引きの話を出してきました。どのように対応し、受注にまで話を持っていけばいいのでしょうか。

 先日は社長様を含め役員の皆様にもお集まりいただき、本当にありがとうございました。30分のお約束だったにもかかわらず、思いのほか盛り上がり、60分近くもお時間を頂いてしまい、失礼しました。

 皆様の印象はいかがでしたか。時間が長引くことをご承諾いただいた上で質疑応答を含めてデモをご覧いただきましたが、「時間が長引くとは、けしからん」などと悪い印象をお持ちではなかったでしょうか?

(相手:そんなことは全くなかったですよ。あの後、役員と打ち合わせをしたのですが「使いやすくて良さそうじゃないか」と好評でした。デモも好評でしたが、事例の話が最も響いたようです。ありがとうございました)

 いえいえ、こちらのほうこそ本当にありがとうございました。心配していたのですが、ご評価いただけたとのことで安心しました。デモの場をセッティングいただき、改めてお礼を申し上げます。

「そこまで考えていただいて助かります」

 役員の皆様に好評だったということで、このあとの進め方を具体的に決めさせていただければと思います。

 弊社としては、まず業務チェックシートで手作業が本当に減るかどうかを至急、ご確認いただければと考えています。その上で、カスタマイズを含めた最終的なお見積もりを提示し、ご判断を頂ければと考えていますが、いかがでしょうか?

(相手:業務チェックシートについて、実は困っていることがあります。現場に書かせているのですが、どう書いたらいいのか分からないようです。書き方の説明資料は頂きましたが、それを見てもよく分からないとのことです)

 そうですか。では弊社の技術担当と共にお伺いし、現場の方と打ち合わせをしながら、その場でいくつか一緒に書いてみることにいたしましょうか。

(相手:それは助かります)

 それでは、今週中にでも打ち合わせをさせていただければと思います。社に戻り次第、技術担当のスケジュールを確認して、すぐにお電話いたします。

 できれば現場の方との打ち合わせの際に、簡単な製品の説明とともにデモをご覧いただければと思います。先日の事例紹介でもお話ししましたが、総合機械産業様では、導入を検討する際に現場の方にデモをご覧いただいたことで、導入がスムーズに進みました。貴社の現場の方にも、この機会にぜひデモをご覧いただければと考えています。

(相手:ぜひお願いします。そこまで考えていただいて助かります)

 XX様(相手の名前)や社長様、現場の皆さんに喜んでいただけるように取り組んでいきたいと思います。何かありましたら遠慮なくおっしゃってください。

「最終的な見積もりがどうなるかが心配です」

 業務チェックシート以外に何か困りごとはございますか。弊社としては、手作業が確実に減ることを業務チェックシートで確認いただければ、弊社のパッケージを発注していただけると考えています。

 発注されるにあたり、「これが揃わないと発注できない」という条件が他にあれば、遠慮なくおっしゃっていただけますか?

(相手:手作業が減るということが確認できれば、発注に問題はないと思います)

 費用面はいかがでしょうか。先日、概算費用の金額をお送りしましたが、それで問題はありませんか?。

(相手:最終的な金額で見積もりを頂いてから、役員会に掛けるつもりです。なので、今の段階では何とも言えません…)

 正直に申し上げますと、パッケージとカスタマイズの費用はお値引きできません。パッケージはそもそも事業収益の基となりますし、今後の機能拡張のための費用も含まれています。カスタマイズは開発費用ですのでそもそも利益率は低いのです。

 見積もり項目の中で、導入教育費用については、営業側である程度工数を負担できるので、お値引きが可能です。ただ、金額としては小さいため、もし先日お送りした概算費用の金額が貴社の予算を既にオーバーしているのであれば、残念ですがご期待いただいても対応は難しいかと思います。

 今回のお話が無くなってしまうかもしれないため、お伝えするのに勇気が要りましたが、今後XX様にご迷惑をおかけしたくないので正直に申し上げました。現状の概算費用は、貴社の予算内に収まっているのでしょうか?

(相手:はい、今のところは予算内に収まっています。ただ、最終的な見積もりがどうなるかが心配です)

「値引きは必須だと考えてもらえますか」

 予算について教えてくださり、本当にありがとうございます。カスタマイズの金額は業務チェックシートの結果次第ですので、現時点では何ともいえませんが、なるべく効率的に開発する前提で見積もり金額を抑えるよう、開発担当に相談しておきます。

 もう一点、予算について確認させてください。予算内に収まっていてもお値引きしないと決裁が通らないというお客様もあるのですが、貴社の場合はいかがでしょうか?

(相手:ああ、値引きは必須だと考えてもらえますか。当社の役員で一人、「絶対値引きがないとだめだ」と主張している者がいます)

 先ほどお伝えしたとおり、導入教育費用についてはお値引きが可能です。しかし、最初から値引いてしまうと、後がありません。

 大変恐縮ですが、最初は定価で進めるということにさせていただけますか。その役員様が値引きの話を言い出された際に、導入教育費用をお値引きするという進め方でお願いできれば幸いです。

(相手:わかりました)

 ありがとうございます。導入教育費用は、できる限り営業側の工数で負担できるよう、今から社内で根回しをしておきます。

 では今後ですが、(紙に今後のスケジュールを書きながら)以下のスケジュールで進める形でよろしいでしょうか?

  • 現場の方との業務チェックシートの打ち合わせとデモ:今週中
  • 貴社での業務チェックシートの作成:来週中
  • 弊社でのカスタマイズのお見積もり:X月X日まで
  • 貴社でのご検討:X月X日まで ←ご発注
  • カスタマイズ開発:X月X日(予定)
  • テスト導入および導入教育:X月X日~X月X日(予定)
  • 本稼動:X月X日(予定)

 カスタマイズ開発以降のスケジュールは、カスタマイズの量によって変わります。お見積もりの際に、最終的なスケジュールを添えて提示いたします。

(相手:はい、このスケジュールで大丈夫です)

 ありがとうございます。導入してよかったとXX様はじめ皆様に喜んでいただけるように取り組んでまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 まず社に戻りまして、技術担当に今週の打ち合わせの日程を確認して、すぐご連絡します。また、今後のスケジュール含めた打ち合わせ内容のメモを本日中にメールでお送りしますので、お手数ですがご確認いただけますか。

 ご不明点やお困りごとがありましたら、遠慮なくご連絡いただければ結構です。本日はお時間をいただき、本当にありがとうございました。それでは失礼いたします。

 クロージングでは受注のための課題や条件を洗い出した上で、スケジュールを設定します。通常想定される課題や条件は、こちらから提示します。手戻りを防ぐだけでなく、顧客の信頼向上につながるからです。

 「受注のための課題や条件」や「対応のためのスケジュール」については、明文化して合意しておくことが大切です。必ずメールや文章でやり取りし、合意を取るようにしましょう。

 あとは、そのスケジュールに従って、作業を進めていけばよいのです。

     ◇        ◇        ◇

 SEから営業職に転向した人に向けて、SEの強みを生かした「ロジカルセールス」の進め方を筆者の経験とノウハウを基に説明する本連載は、今回がひとまず最終回です。解説編とケーススタディ編の計17回にわたってお付き合いくださり、ありがとうございました。

 この連載をご覧になって、「ここに書かれているのは当たり前のことばかりではないか」と感じた方もいると思います。その通りです。営業担当者として行動する際のポイントは「当たり前のことを実行すればよい」といえます。

 問題は、分かっているのになかなか実行できないということです。この連載で「どうすればよいか」だけでなく、「なぜそうすべきか」という理論(ロジック)をできるだけ丁寧に解説するよう心がけました。理論を理解し納得すれば、自信を持って実行できるようになるからです。

 考えて実行したとしても、すぐに成果が出ることはまれです。成果がなかなか出なくてもあきらめずに、PDCAサイクルを回しつつ成果が出るまで当たり前のことを実行し続けることが必要です。

 SE出身の営業担当者の皆さんや、これから営業を担当する可能性がある皆さんにとって、この連載が少しでもお役に立てば幸いです。

吉田 守
ウイングアーク1st 営業本部クラウド事業統括部クラウド営業部西日本グループ グループマネージャ
IT企業に勤めながら、営業および事業企画に困っているIT企業のコンサルティングに取り組む。SEからシステム営業を経てSI事業やパッケージ事業の企画から立ち上げをおこなう。現在はウイングアーク1stでクラウド事業の立ち上げに従事する。