ディテール熱が高まり「懲り過ぎ」の時代も 菅順二氏(竹中工務店 常務執行役員)、その3〔失敗に学ぶ編〕

若き日の菅順二氏を駆り立てたのは、ディテールに対する熱意だった。仕上げ材や部品を選ぶ際もすべてのカタログを見渡して決める徹底ぶり。時には使いにくさも指摘されたが、漏水対策などには細心の注意を払った。(全3回のうちの第3回。この回のみ日経アーキテクチュア購読者限定)

「押す」のサインを貼られた扉

 若い頃は、ひたすらディテールデザインに凝っている時期がありました。俯瞰(ふかん)的かつコンセプチュアルだった学生時代の考え方とは対極に振れるように、ディテールを追求していったのです。好きだったのはカルロ・スカルパ。イタリア・ベネチアにあるオリベッティのショールームを見学した際には、枠とガラス面をそろえて納めたサッシまわりのディテールなどが印象に残っています。

1986年の海外デザイン研修にて。24日間で欧州10カ国を巡り、107の近代建築を視察して回った。イタリアでは、カルロ・スカルパの建築のディテールなどを興味深く見た(写真:菅 順二)

 設計業務に際しても、ファサードからインテリアに至るまで、特にサッシやカーテンウオール、建具、異なる材料同士の接点のディテールには徹底的にこだわり、詳細図を描いていました。

 カーペットから壁紙、建具金物や、トイレの紙巻といった製品を選ぶ際にも、プロジェクトごとにカタログを日本中から集めて1つずつ選択していました。特にバブル経済期は建材の種類も多かったので、選びがいがありました。いま振り返ると懲り過ぎだったなとも思います。

 ある建築のインテリアでは、扉を周辺の壁と一体でデザインし、そのなかに主室への扉と点検口を入れ込みました。扉には軸回転する方式を採用したのですが、実際に使い始めると、どこが扉か、どこを押せばよいのかが分かりづらく、しょっちゅう点検口を開けてしまうと言われました。後日行った際には、扉に「(ここを)押す」というサインが貼られていました。また、扉枠をフラットバーでつくったので、扉が重すぎて取り付けに手間がかかると作業所の所長に苦言されました。

 ただ、「竹中工務店東京本店」(2004年竣工)を手掛けたころから、以前のようにはディテールに執着しなくなりました。それまでの呪縛が解けたように過度のこだわりがなくなり、さりげなくディテールをつくり込むようになったのです。

 その背景には、デザインの蓄積ができて、「ここにはあのアイデアを使える」という応用が利くようになったという面もあります。ただ、それだけでなく、竹中工務店東京本店は当社の設計部も入る建物ですから、個性的なデザインというよりは機能的にもデザイン上も模範とならなければという思いが強かった。そして何よりも、建築をより俯瞰的に見るようになり、発想のバランスの傾きが変わりました。ある意味、学生時代の初心への回帰です。

菅順二氏(写真:花井 智子)

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