攻めの設備設計で環境を追求する中川浩明氏、注目の10人(8)

技術力でデザインを支援

建築設計に合わせて空調方式や機器の納まりを検討する――。竹中工務店の中川浩明氏は、こんな従来のイメージを覆す攻めの姿勢の設備設計者だ。計画段階から建築設計者などと打ち合わせを重ねる。国際コンペなどにも参加し、これまでにない仕組みを提案する。構造材を配管にも利用できれば設備の寿命は延びると、今後を見据える。

竹中工務店大阪本店設計部の設計第1部門で設備担当の課長代理を務める中川浩明氏。背後は、メンバーとして担当した壁面緑化パネル。緑化に樹木を用いる。大阪府街なみストリート助成事業として採用された(写真:ケンプラッツ)

食事や自習など3つのモードに対応

 「建築設計者がオリジナルなものを生み出したいと考えるのと同様に、設備に関して世の中にないものをつくりたいと思っている」。こう話すのは、竹中工務店大阪本店設計部で設備担当の課長代理を務める中川浩明氏だ。

 竹中工務店に入社して16年ほど。2年目に設計部に配属されてからは、設備設計一筋でやってきた。「自分のアイデアを実現しやすくなったのは10年を過ぎた辺りから。建築設計者をはじめ、話を理解してもらえるようになってきた」。経験に基づく対話力の向上とともに、シミュレーションなどソフトの発達が大きいという。

 現在、施工中なのが神戸薬科大学6号館の建て替え。神戸市内の六甲山の山裾に建ち、周囲を緑が覆う。新6号館は、上の階に体育館、下の階に食堂やラウンジを配置する。ラウンジは食事をする場であったり、自習する場であったり、談話する場であったりと、3つの用途を持つ。「こうしたモードチェンジに、風や太陽光、太陽熱を利用してどう対応するかがポイントだった」と中川氏は言い、次のように加える。「建築設計者との初期からの協働は欠かせない。特に最近は、設備設計が待っている状況ではモノが生まれない」。

神戸薬科大学6号館の建て替えで生まれる新6号館のモンタージュ。上階の体育館の庇に太陽熱集熱パネルを取り付ける。下階はルーバーで覆う(資料:竹中工務店)

 新6号館の南面には、目線の高さを除いて水平ルーバーを設置し、日差しを遮りながら、ルーバーへの反射で室内の奥まで自然光を導く。ただし足元のルーバーは近隣への視線をカットするとともに、冬季には太陽光が床に届くように配慮している。さらに足元は開閉できる窓ガラスとし、斜面地を利用した自然通風を可能にした。

 自然採光を踏まえた人工照明では、学習時の水平面の照度を確保する一方、垂直面の輝度を保つことによって、学習以外のときに照度を落としながら明るさ感を確保する計画としている。もうひとつ説明が必要なのが太陽熱の利用だ。太陽熱集熱パネルを南面に設置、温水を給湯や暖房のほか、外調機の除湿ローターの再生熱に使用。温度と湿度を個別に制御した床下空調に生かしている。床下空調の採用で3.9mの天井高を実現した。

 建築などと一体になった設備計画によって、建て替え前より、二酸化炭素の排出量を36%削減するのが目標だ。

構造と設備の一体化も視野に

 中川氏はコンペにも積極的に参加している。代表例が2010年の台湾・高雄港クルーズターミナルの国際コンペ。竹中工務店は、最優秀は逃したものの3位に入った。建築設計の森田昌宏氏や宮島照久氏らが先導するなか、設備設計のメンバーの1人として重要な役割を果たした。

 竹中案は、緩やかに曲率を変えながら自由曲面が建物全体を包み込む斬新な外観。自然界に潜む幾何学のルールにヒントを得た。中心となるのが、アクティブ・プラザと呼ぶ巨大な吹き抜け空間だ。国際クルーズ船の乗客、市民が集うこのオープンスペースを半透明の二重皮膜のシェードが覆っている。

 高温・多湿な気候のなかで人を集めるため、設備計画では「風を導く」「光を導く」「涼を導く」の3つをコンセプトに据えている。まず、北からの卓越風がスムーズに抜けるように建物形状やアクティブ・プラザの配置を検討。次に、高い太陽高度からの日射を適切に遮るため、二重皮膜の室外側の方にフラクタクル構造のパネルなどを配置、室内側の方に透過率を制御するフィルムを貼るなどして、内部への輻射熱の影響を軽減するとともに木陰をつくることを目指した。

台湾・高雄港クルーズターミナルの国際コンペの竹中工務店案。中心となる空間であるアクティブ・プラザの風の流れをシミュレーションしている(資料:竹中工務店)
アクティブ・プラザに提案した除湿フィン。地下水と熱交換した20度ほどの水を通すことによって、高温・多湿の空気を除湿し、温度を下げる考え(資料:竹中工務店)
アクティブ・プラザの内観CG。木陰のような日影と自然の風を導く仕組みを備えた建築を提案した。半透明の二重皮膜のシェードが樹木の枝葉のような役割を担う(資料:竹中工務店)

 もうひとつは、除湿フィンの採用だ。地下水と熱交換した20度ほどの水を通すことで、高温・多湿な空気を除湿して温度を下げる効果を狙う。除湿フィンは分散配置とし、アクティブ・プラザ内に多様な風速・温度・湿度の分布を生む考えだ。集まった市民に好みに応じて場所を選んでもらう。

 このコンペでは提案できなかったが、中川氏はさらに進んだ方向性を探っている。「例えば、構造部材の接合部を閉じずに内部を空洞にして水を通すことはできないか。設備の配管などは約15年で交換時期がくる。構造材と一体にできれば、設備も構造の寿命と同様にロングライフ化できる」。今後の課題として中川氏は取り組んでいく考えだ。

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