目指せ異業種への転換半導体生産技術者、外食業界へ

「Aさんにピッタリな仕事がありますよ」

 懇意にしていたコンサルタントが持ってきたのは、大手外食チェーンの求人だった。半導体の仕事にはこだわらないが、外食業界とは。第一、聞き覚えのない会社名だ。まずはホームページでものぞいてみよう。Aさんが人生の新たな扉を開いた瞬間だった。

 201X年1月。生産技術部門のシニア・エキスパートを務めていたAさんは、還暦を目前にして次の職場を探していた。雇用延長の申請も考えたが、そんな時代でもないと思い直した。当時は国家プロジェクト関連の仕事で忙しかったが、「半導体の国プロ」は旗色が悪い。関わっていたプロジェクトは既に終わり、新しいテーマが立ち上がる見通しもない。会社を離れることに迷いはなかった。

「面白そうな会社だ」。ホームページに書かれたユニークな企業理念を読んでそう直観した。人事面接を経て社長面接に進んだ。半導体の細かい話をしても仕方ない。そう思って、本職と自認する「業務技術」への思いを語った。開発や生産などあらゆる場面で、業務の効率をいかに高めていくかの技法だ。社長は随分熱心に話を聞いてくれた。

異業種でも変わらない本質

 入社後に待っていたのは、技術部門の本部長職。食材の加工工場や全国に数千ある店舗にどのような設備や器具を導入し、業務効率を高めるかの責任を預かる。ベテランの自分に与えられるのはアドバイザー的な仕事だと想像していたので、思わぬ重責に一瞬ひるんだ。

 いざ仕事を始めてみると、意外にも半導体技術者の仕事と本質はまったく変わらない。全国の店舗で提供する外食商品の味は、店の場所や一日のうちの時間帯によって微妙にばらつく。こうしたばらつきを抑え、どの店でも時間帯によらず美味しい外食商品を提供できる環境を整えることがミッションだ。「ばらつきを抑えること」は生産畑を歩んできたAさんにはなじみの深いテーマだった。

 半導体との大きな違いも感じた。食材のたまねぎ一つを取ってもサイズや味にばらつきがある。「入力パラメータのばらつき」がやけに大きいのだ。極めて均質な材料であるSiウエハーと同じようには扱えない。そもそも、食材という「入力」と外食商品の品質や味という「出力」の関係がモデル化されていない。出力をばらつかせるパラメータが何かを探る作業から始めなくてはならないのだ。

 店舗数の多さも悩ましい。1万円の器具でも、全店舗に導入すれば数千万円の支出になる。一つの決断がもたらすインパクトの大きさが半端ではないのだ。ただ、初めて向き合うそうした難しさに今は面白みも感じ始めている。

異業種で感じる充実感

 挑戦すべきテーマは山積みだ。外食産業は今、踊り場にある。コンビニであれほどおいしい弁当が売られる時代だ。店で食べてもらうことの価値を再考しなくては。回転寿司などの皿にICタグを付け、ビッグデータを集めるという野心的なテーマも転がっている。「あと10年早く、こっちの業界に来ていればな」。そんなことを感じる充実した日々だ。

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